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浅香山
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猫の病気

消化器系の問題

食欲不振

食事の量が減った場合,あるいは全く食事をとらなくなることが,食欲不振です.全く食べない場合は「食欲廃絶」とも呼ばれます.病気の中には,異常に食欲が高まるもの,食べても食べても痩せるものなどもありますが,これら特殊なものを除いて,ほとんどの病気で食欲不振が起こります.したがって,ここでは個々の病気をあげることはとてもできません.大切なことは,病気以外の原因で食欲が落ちているのかどうかを見きわめること,いつまで待ってよいかの判断,食欲がないときどのようにして家庭で食べさせるか,の3点であると思います.

食欲不振と判断する基準としては,まず普通に食べている量というのはかなり一定したものであるはずで,これがばらつけば食欲不振のはじまりと考えられます.本当の食欲不振ならば続くのが普通で,1食分食べなかったというのはあまり重大な問題ではないでしょう.そのような場合には,食べる気配がなければ片づけて,次の食事の時にまた新しいものをやってみます.また食欲不振と判定するための「食べていない時間」も年齢によって違います.食欲がないのが,1-2カ月齢の幼猫では8時間以内,2-3カ月齢では12時間以内,3-4カ月齢では16時間以内,1歳以上の成猫で24時間以内であれば,とくに異常ともいえません.

食欲不振であるということになったら,まず正常な行動としての食欲不振かどうかを調べてみましょう.何かをこわがっているとき,落ちつかない場合,興奮している時に食欲はなくなります.また環境の変化,たとえば引っ越し直後,旅行中,旅行から帰ってきた,などという場合も同様です.それから繁殖期です.雌猫が発情中,あるいは雄猫でもそばに発情した雌がいる場合,食事ものどを通らないというのは理解できるでしょう.また雌猫の分娩の前後は食欲がなくなります.すなわち,「食事どころではない」という状況がないかどうかまず調べてみることです.

次に食事そのものの問題です.一部の猫では,昨日まで食べていたものを飽きてしまうということもあるようです.またいつもと違うものをあげた場合にも拒否することはよくあります.それから,食事の量に注意してみてください.前の食事でたくさん食べ過ぎて,まだおなかがすいていないということもあるのです.いつも一定の量を与えているかどうかをチェックしてみてください.多めに与えた場合,残ったものはあまり魅力的な臭いではなくなるようで,新しいものに変えてやるだけで食べ始めることもあるでしょう.また冷蔵庫から出したばかりの冷えた食事は嫌いな猫も多いようです.あるいは学習してしまって知恵がつき,食べないでいるともっとおいしい食事が出てくると思っている猫もいます.おいしいはずの缶詰も毎日では飽きてしまって,上にドライフードのふりかけをかけてくれるまで待っていよう,などと考えているのです.

ここまでの原因ではないということがわかったら,つぎに考えるのが病気です.病気といっても単に熱がある,消化器系(口から胃,腸まで),その他の病気による腹痛や他の部位の痛みなど様々です.口内炎で口が痛くて食べられないということもあるでしょう.元気がなくてうずくまっている様子ならば,熱や痛みがあると考えられます.ここで区別するべきことは,食欲不振だけなのか,他の症状を伴うのかということです.熱以外にも下痢,嘔吐,血尿などないか注意してみましょう.これによってすぐに病院に行くべきかどうかが違います.

食欲不振と他の症状がみられる場合には,救急の症状を除き,24時間待ってみて,おさまらないならば病院に行くべきです.また症状がなくても,食欲廃絶,あるいは水をのまないというのが36時間続いたら,病院に行くべきです.また完全に食欲はなくなっていないが,食欲不振(低下)が72時間以上続くならば病院に行ってください.
とくに太った猫の場合,絶食が許されるのは36時間までということをしっかり覚えておいてください.これを過ぎると,肝臓に脂肪がたまる脂肪肝という病気になります.これは急激に起こって,全身的に衰弱し,黄疸が出ることもよくあります.これはとくに猫に起こる病気なので,人間の基準でまだいいだろうなどと考えていては危険です.
病気の症状がない場合,24時間を過ぎた時点から,家庭内で食べさせる努力を試みてもよいでしょう.この場合には,ただでさえ食欲がないのですから,その他の条件でさらに食べる気を失わないよう,以下のことに気をつけます.まず落ちついて食べられる環境を作ること.これは横で犬がじゃましたりしないような環境のことです.次に食器に気をつけること.これは使い慣れたものであればよいのですが,汚れていないことが条件です.前の食事の残りがついたりしていてはいけません.また深いおわんはひげがさわるので平たいものにかえるのがよいでしょう.食事は多すぎないよう,いかにもおいしそうにもりつけてください.マグロの缶詰のようないい臭いがするものを使うのも効果的かもしれません.自分が病院に入院しているときに,山盛りのまずそうな食事が出たらどう思うか考えてみましょう.それでも食べなければ,あやしながら,口の所に持って行くのも方法です.これでだめならば,食事は10分以上出しておかずに片づけます.そして小量づつ,頻繁に試してみましょう.

病院に行った場合には,食欲不振の原因を突き止めるため,様々な検査が行われます.また絶食時間が限度に達している場合には,強制給餌という方法がとられます.これには,注射器で流動食を入れる簡単なものから,口から胃にチューブを入れたり,食道に穴をあけてチューブを入れたりするものまであります.
猫が食べないというのには何か原因があるはずです.食事の状態,飲水の状態,便や尿の状態を毎日チェックするのは飼い主の重大な役割です.病気を早く発見するためにも,いつも気を配っていたいものです.


これ以上持続すれば食欲不振

年齢 食べていない時間
1-2カ月 8時間
2-3カ月 12時間
3-4カ月 16時間
1歳以上 24時間


病気以外の食欲不振の原因

行動性
恐怖心,興奮
環境の変化
繁殖期
分娩前後

食事性
飽き
食事の変更
食器の変更
前食の量
満腹
冷えた残り物


こんな時はすぐ病院に

−病気の症状と食欲不振が24時間続いてみられた
−他の症状はないが,全く食べない,全く水を飲まないのが36時間続いた
−他の症状はないが,食欲が落ちて72時間経っても改善しない


食欲のない猫への食事の与え方

−静かな環境で
−きれいなお皿で
−できれば平たいお皿で
−小量のおいしそうなものを
−よい臭いのものを
−冷たくなく熱くなく(やや温かい程度がよい)
−一部の猫は薄い酸味が好き
−あやしながら口へ
−食べない場合は10分以内に片づける
−小量づつ,頻繁に


口の中を痛がる

猫には口の中の病気が比較的多くみられますが,猫が口を開けるのをいやがるため,症状がかなり進行してしまってから診察を受けることが多いようです.

歯の周囲に起きる病気を歯周病と一般に呼び,この状態が悪くなると歯を支える組織がもろくなって,歯と歯の周囲の歯肉の間にすき間ができて歯はぐらぐらになります.歯肉が赤くただれた状態をとくに歯肉炎と呼びます.早期のものでは,歯の根本の歯肉が歯に沿って線状に赤くなっているだけです.口の中には細菌が住み着いていて,もっと悪い細菌の繁殖を抑えていますが,炎症が起きて粘膜が損傷されると,口の中の細菌も粘膜から侵入して,さらに激しい炎症を起こすようになります.

原因の一つとして歯石があり,歯石をとったり歯をぬくことによって治療できる場合もあります.しかし多くは口の中の免疫,抵抗力の減退が重要な原因になっています.ネコ免疫不全ウイルス(FIV)やネコ白血病ウイルス(FeLV)などのウイルス感染で免疫力が低下しているものが多くみられますが,ウイルスは陰性でも,原因は不明のまま免疫力が低下しているものもあります.

口内炎は口の中の炎症全般を指す言葉ですが,組織がカリフラワーのように盛り上がったもの,潰瘍になるものなど様々な形がみられます.これも直接の原因は細菌の感染ですが,本質的な原因としては免疫力の低下が考えられます.また歯が当たるところにできたものは歯を抜くことで治るかも知れません.

特殊なものとしては,急性の潰瘍が口の中や舌にできるものがありますが,これはカリシウイルス感染によるもので,普通は1週間位で治るものであるし,もちろんワクチンを接種してあれば起こらないので,ここでは特に問題にしません. また好酸球性肉芽腫群という病気では,唇が潰瘍になったり,舌に腫瘤ができることがあります.これらはすべてノミや食事に対するアレルギーが原因と考えられているので,それらに対する治療を行えば大したことにはなりません.老猫では口の中に扁平上皮癌などの悪性腫瘍ができて,これが口内炎にみえることもあります.

口内炎を疑う症状としては,口が臭い,よだれが出る,食べるとき痛がるなどがあります.口の中を開けて,歯肉や他の部位の粘膜が赤くただれていたり,腫れたように盛り上がったり,あるいは出血していれば口内炎があります.口内炎がみられた場合には必ずFIVやFeLVの検査が必要です.また好酸球性肉芽腫群や悪性腫瘍を診断するために,組織をとって病理診断を行うこともあります.

治療法は口腔内の消毒によっていつも清潔に保つこと,細菌を抗生物質でコントロールすること,あるいは炎症を薬で抑えることです.ただし口腔内の癌については切除したりする必要もあります.炎症をコントロールする薬としては,副腎皮質ステロイドの注射,あるいは内服がよく使われます.少ない量の内服,あるいは1カ月以上あけて注射を行うのであれば,副作用の心配もあまりないでしょう.しかしながら,慢性化したものではかなり治療が難しいのも事実です.

したがって,予防と早期発見が非常に重要です.子猫のころから口を開けること,あるいは口の中の消毒や歯磨きに慣らしておけば,予防にも早期発見にも役立ちます.また食事も小さな時から歯石のつきにくいものがすすめられます.


嘔吐

猫の飼い主として「吐く」という異常な症状を発見することが多いと思われますが,厳密には吐きそうな動作はするが吐かない,食べたものをすぐに吐く,食べた後にゲーゲー吐くなど,違った症状が含まれています.これらは病気としては違うものであったり,原因が違うこともあるので,獣医師が正しく診断するためには,正しい情報を伝える必要があります.一般に吐くというと胃や腸の病気を想像しがちですが,実は全身の病気,神経の病気,あるいは精神的な病気などが原因であることも少なくないので,長い間あるいは激しく吐いている動物については多くの検査が必要で,診断も難しいことがあるということを知っておいてください.また原因が何であれ,吐くことによって体の中の水分やミネラルが体外に失われて危険な状態になることがあり,また体力もかなり消耗するので,原因を追及すること以外にも緊急の処置が必要な場合がよくあります.
猫が吐いている場合,あるいは吐こうとする動作をしているようにみえる場合,それをよく観察してください.実際に口から食べたもの,あるいは胃の内容が吐き出された場合でも,本当の「嘔吐」である場合と,「吐出」の場合があります.嘔吐の場合は,実際に吐き出す前におなかの筋肉や横隔膜が収縮して,強力な力で胃の内容が吐き出されます.そしてゲーゲーする状態や,よだれを伴います.それに対して吐出というのは,何の力もなくすっと食べたばかりのものが戻されます.猫はけろっとしていることが多く,全身的に病気にみえたり脱水が起こったりすることはまずありません.吐出というのは実際には胃の中まで食事は達していなくて,食道から戻ってくるものなのです.ただし食道の中にしばらくとどまっていて吐くこともあるため,必ず食後直ちにというわけではありません.吐出で吐いた後にゲーゲーすることはあります.また「嚥下困難」という状態では食べたものが中に入って行けない異常なので,食べた後にすぐ戻されます.これでも別に力で戻されるわけではなく,すんなり出てくるのが特徴です.戻した後にはよだれがみられることもあります.その他咳と吐く動作をまちがえることもよくあります.またせき込んだ後に気持ちが悪くなって本当に嘔吐がみられる場合もあるので,咳のあるなしを獣医師に伝えることも重要です.

吐出や嚥下困難は,口から食道,胃の入り口にかけての異常で,食物が通りにくくなっているのが原因です.したがって,全身の様々な病気からきていることは少なく,猫は元気にみえることが多いものです.ただし長く続けば栄養がとれなくなるし,また治療にも手術が必要なことが多く,決して見逃しておいてよいものではありません.
時に急いで食べて吐出や嘔吐したり,あるいは毛玉を吐く猫もあります.このため猫が吐くのをみることは比較的多く,飼い主も「また吐いてる」程度にしか思わないこともよくあります.しかしながら毛玉を頻繁に吐くこと自体異常なことですから,そのような場合にはぜひとも診察を受けた方がよいでしょう.また食べた後よく吐く,とくに毎日吐くなどという場合はやはり診察が必要です.

病院に行くかどうかの目安は,まず第一に,急で激しい嘔吐かどうかということです.1日に何回も嘔吐していれば,水分も失われるのでそれだけで病院に行く必要があります.そして第二に全身症状があるかということです.元気と食欲がなくぐったりした様子で吐いている場合には,様々な全身の病気が疑われるのでぜひ病院に行ってください.それから吐いたものの中に多くの血が混じっている場合はすぐに病院に行く必要があります.それまで元気で急に吐きだした場合は,異物を飲んだ可能性,中毒なども考えなくてはなりません.とくに紐で遊んでいてそれを飲んだ場合,紐の端が舌に引っかかり,腸が引っ張られてとても危険な状態になります.紐やゴムなどレントゲンに写らないものは診断が難しく,おなかを手術で開けなくてはならないこともよくあります.

あまり激しくなくても,長く続いている場合は慢性の嘔吐であり,病院で詳しく原因を調べる必要があります.毎日食事の後に必ず吐くなどという場合はこれに当てはまります.嘔吐の原因には,口の中の問題(咽頭や喉頭の炎症−のどの奥に指を入れると吐き気を催すのと同じ),胃腸の病気(胃腸炎,ウイルス,寄生虫をはじめ,潰瘍,ガン,捻転,薬物,食事,異物など様々な原因),胃腸以外のおなかの中の臓器の異常(膵臓,肝臓,腎臓,子宮などの病気や腹膜炎など),全身疾患または代謝の病気(糖尿病,尿毒症,肝臓病,副腎の異常,中毒など),神経系の病気(脳の病気,心理的な問題など)があります.したがって,これらを正しく診断するには,レントゲン検査,造影検査(人間でも行うバリウムを飲む検査),内視鏡検査(胃カメラと呼ばれるもの),超音波検査(エコー検査),さらに血液検査(貧血がないか,炎症はないか,白血病を疑う細胞はでていないかなどを検査),尿検査(腎臓病,膀胱炎や糖尿病のための検査),糞便検査(消化の状態,寄生虫,細菌などの検査),血液化学検査(肝臓や腎臓など全身にわたる検査),ウイルス検査(ネコ白血病ウイルス,ネコ免疫不全ウイルス,ネコ伝染性腹膜炎ウイルス)を行い,必要な場合にはおなかを開けて検査することもあります.また,内視鏡で胃腸の組織をとってきて顕微鏡で検査することもよくあります.もちろんおなかをさわっただけで,中にごりごりとしたしこりがあるのがわかってしまう場合もあります.したがってどれだけの検査が必要かはケースバイケースで異なるでしょう.

このように,「吐く」というだけでも原因を突き止めるのは大変なことがあります.単純に吐くのを薬で抑えれば終わりということではなく,根本的な原因を治療しないと吐くのは止まらないことがあります.このような場合,検査にはかなりの時間と金額がかかることを理解してください.現在では人間の医療に近いレベルまで検査や治療が行われるようになっています.家族の一員の病気ですから,完全な医療を受けさせてあげるのは飼い主の責任でしょう.しかしながら簡単な場合には,症状を抑える処置と水の補給程度で治ってしまうこともよくあります.したがって,猫はよく吐くという迷信は捨てて,吐いているようならよく観察し,重大な問題,あるいは長く続く問題としての疑いが少しでもあれば,すぐに病院に行くようにしてください.

病院に行くかどうかの判断(1つでもあれば獣医師に相談を)

1.激しく吐いている
2.何回も吐く
3.元気と食欲もない
4.吐く動作だけだがそれが頻繁で元気もない
5.吐いたものに血が多く混じっている
6.脱水して皮膚に張りがなく目がくぼむ
7.毎日1回でも数日以上続く
8.吐いていて徐々にやせてきた
9.虫を吐いている
10.中毒の可能性がある


「猫が吐く」チェックリスト−病院で聞かれたら答えられますか

1.本当に吐くのか,吐く動作だけか?
2.吐く場合に,まずゲーゲーしてから,あるいはおなかが収縮してから吐くか?
3.吐く前によだれが出るか?
4.せきはあるか?せきの後にゲーゲーするのか,あるいは吐くのか?
5.食べたものを未消化の形で苦しみもなくすんなり吐くのか?
6.どんなものを吐くのか?食事そのものか,液体か?
7.食後すぐに吐くのか?食事と関係なしに吐くのか?
8.血は混じっているか?
9.どんな色がついているか?
10.ひものような白い虫はいないか?
11.毛玉を吐いているのか?
12.1日に何回吐くのか?
13.いつから始まってどのくらい続いているのか?
14.下痢その他の胃腸症状は?
15.おなかが痛くてうずくまっている様子か?
16.このごろ水をがぶのみしたり尿が多くないか?
17.食欲や元気は?うずくまっているか?
18.皮膚をつまんで元にすぐ戻るか?戻らなければ脱水している.
19.口の中に何かないか?舌の下側に紐はからまっていないか?
20.何か変なものは食べなかったか?食事は変えていないか?
21.行動に異常はないか?
22.ストレスや恐怖はないか?


下痢

下痢とは,正確には水分の多い便の排泄のことですが,これに加えてやや柔らかい便,量が多くなった便,頻繁に便をするなどという場合も下痢として扱われます.そして下痢の状態を表す言葉として,水様の,血液が混じった,悪臭の,射出性の(ぴゅっと飛び出す)などが使われます.また,急に下痢をするようになった場合が急性の下痢で,治療を行っても2-3週間も続くようになったものが慢性の下痢です.

下痢は小腸に異常があっても大腸に異常があっても起こります.そして原因は腸自体の病気,感染,異物その他様々です.原因が異なっても最終的な症状は下痢として現れるので,獣医師が正しく診断し治療するためには,どこに異常があるのか,何が原因なのかを知ることが必要です.したがって,猫の体を調べたり,便を調べたりする以外にも,多くの情報が必要です.このため,いろいろな質問に正しく答えられれば,正確な診断の第一歩が望めます.すぐに病院に行くかどうかの判断は,症状の激しさで決めるとよいでしょう.多量の血液が出ている場合,脱水がひどい場合,中毒の可能性がある場
合はすぐ連絡してください.

下痢の原因を探る場合,まず急性の下痢か慢性の下痢かを判断することから始めます.もちろんいま始まったというものは急性ですが,本来慢性化する病気がいま始まったということもあるので,治療を行いながら経過をみて判断することもよくあります.次に下痢が小腸で起こっているのか,大腸で起こっているのかを区別する必要があります.このために獣医師はいくつかの質問で小腸性の下痢と大腸性の下痢を鑑別します.表に示した質問項目にできるだけ答えられるようにしてください.質問に答えられない場合には,下痢をするところを獣医師が観察しなくてはならない場合もあります.そして次に,全身症状(すなわちぐったりする,食欲がまったくない,発熱,嘔吐など)があるかないかも重要な区別になります.

急性の下痢で元気も食欲もある場合には,小腸でも大腸でもそれほど深刻な病気はありません.食事の問題,腸内寄生虫,ごみあさり,薬物などが原因です.したがって検査としても,身体検査と便の検査だけで済むことが多いものです.若い猫では回虫やコクシジウムなどの寄生虫がよくあります.したがってそれらが便の検査で発見されれば,それに対する薬を出してたいていそれで治ってしまいます.とえりあえず対症療法で下痢を止める処置をしてみることもよくあります.そして脱水などに対する治療も行います.

しかし急性のもので,元気がない,熱がある,嘔吐,おなかが痛そうなどの全身症状を伴っている場合には,もう少し深刻な感染症,中毒,膵臓の病気などが疑われます.このため,検査の範囲もかなり広がり,便の検査に加えて,全身を調べるための血液検査,血液化学検査,尿検査,時には便の細菌培養も必要になります.そもそも猫の急性の下痢は犬ほどは多くないようですが,感染症によるものが比率としては多いようで,ウイルス性,細菌性,寄生虫性がみられます.その他猫の遊びで紐を飲んだ場合などがあげられます.猫はあまり変な食べ物は口にしないので,犬ほどはごみあさりによる下痢は少なく,また急性膵炎も多くありません.
下痢が2-3週間も続くようになったものは慢性の下痢として別のアプローチがとられます.

下痢の原因としては小腸も大腸も考えられますので,正しい治療のためには,どこにどのような原因があるのか診断することが重要です.とくに慢性の下痢の場合は対症療法でよくならないことが多いので,じっくりと原因を追及することが必要なのです.
まず小腸で起こっているのか,大腸で起こっているのかを区別するためには,どのような下痢か,どのような動作で下痢をするかでわかることが多いので,病院では獣医師の質問に答えられるようにしておくと答も早く出るでしょう.
まず便の様子は,軟かい軟便なのかそれとも下痢なのか,あるいは水のような便なのかです.そして下痢便の量は多いかどうかも重要です.一般に小腸に問題がある場合には多く,大腸の問題の場合は普通か少な目なものです.1日何回くらい下痢をするのかも記録しておきましょう.小腸の場合はやや回数は多く,大腸の場合は量は少なくても回数が非常に多いのが特徴です.

下痢をするとき猫はきばるかどうかもよく観察しておきます.きばる場合には肛門に圧力が加わって下痢便が肛門から勢いよく飛び出します.これが大腸の下痢の特徴です.さらに下痢便に血が混じっているか,あるいは黒い色かも問題です.赤いのは出血がある証拠で大腸の問題,タールのように黒いのはずっと上の方すなわち小腸で出血している証拠です.下痢便に粘液が混じっているかどうかは,混じっている場合には大腸の問題が疑われます.前より激しく痩せてきたかどうかも,小腸性の場合によく体重減少がみられるので鑑別に役立ちます.その他の情報として便の検査もよく行われます.
小腸の問題か大腸の問題かわかったところで,それぞれにとても多くの病気が考えられますので,1つ1つ原因を検討して消してゆかなければなりません.小腸性の下痢では腸自体の病気,膵臓の病気,肝臓の病気,そして甲状腺の病気を区別する必要があります.したがって,血液検査,血液化学検査,便の精密検査,膵臓機能の検査,甲状腺の検査,レントゲンと,内視鏡および腸の生検が必要になることがあります.とくに慢性の腸の病気には慢性腸炎や腫瘍が数多く含まれるので,生検によって組織をとって,顕微鏡で検査することも多くあります.
大腸性の場合も炎症,腫瘍,異物など様々で,膵臓の精密検査は行わないかわりに,造影剤を飲んでレントゲンをとったり,内視鏡で生検を行ったり多くの検査が行われます.

もちろん飼い主の経済的負担や猫に対するストレスも十分考慮して,最初は食事を変更したり,対症療法を行ったり,簡単な検査から先に行ったりしますが,それらで診断がつかなかったり治らない場合には,これらの検査がどうしても必要になります.またネコ免疫不全ウイルス,ネコ白血病ウイルス,ネコ伝染性腹膜炎ウイルスの3つの検査も必要になります.

このように,下痢の診断も,慢性になった場合はとても大変で,原因を突き止めるのに苦労することがあります.単純に下痢を薬で抑えれば終わりということではなく,根本的な原因を治療しないと下痢は止まらないことが多いのです.このような場合,検査にはかなりの時間と金額がかかることを理解しておく必要があります.
猫も家族の一員ですから,完全な医療を受けさせてあげるのは飼い主の責任でしょう.また中年以降には年1回の猫ドックを行って,病気の早期発見につとめましょう.そして,下痢のようなはっきりわかる症状がみられる場合には,よく観察し,素人療法は避けて(絶対に人間用の薬は家庭では飲ませないでください),すぐに病院に行くようにしてください.

病院に行くかどうかの判断(1つでもあれば獣医師に相談を)

(このうち多量の血液が出ている場合,脱水がひどい場合,中毒の可能性がある場合はすぐ連絡した方がよい)
1.激しく下痢をする
2.何回も下痢をする
3.元気と食欲がない
4.下痢と嘔吐がみられる
5.便に血が多く混じっている
6.脱水して皮膚に張りがない
7.毎日1回でも数日以上続く
8.下痢が長く続き徐々にやせてきた
9.虫を吐いている,または下痢の中に虫がみられた
10.中毒の可能性がある


「猫の下痢」チェックリスト−病院で聞かれたら答えられますか

1.軟便なのか下痢なのか?
2.水様便なのか,軟便なのか?
3.下痢便の量は多いか?
4.1日何回位下痢をするのか?
5.下痢をするとき猫はきばるか?
6.がまんができずに便所以外でもらしてしまうのか?
7.下痢は肛門から勢いよく飛び出すか?
7.下痢便に血が混じっているか?
8.下痢便は黒い色か?
9.下痢便に粘液が混じっているか?
10.下痢便は悪臭を放つか?
11.ひものような白い虫はいないか?
12.肛門の回りに白い米粒のようなものをみたことはないか?
13.嘔吐はあるか?
14.元気と食欲はあるか?
15.おなかが痛くてうずくまっている様子か?
16.皮膚をつまんで元にすぐ戻るか?戻らなければ脱水している.
17.口の中に何かないか?舌の下側に紐はからまっていないか?
18.何か変なものは食べなかったか?食事は変えていないか?
19.いつから始まってどのくらい続いているのか?
20.前より痩せてきたか?


便に血が混じる


下痢,軟便,固い便を問わず,便に血が混じっていればそれは異常です.血が混じっている,すなわち赤いものがみえるということは,肛門に比較的近い部分からの出血が疑われます.これには大腸(結腸,直腸)と肛門自体が含まれます.
それより上からの出血であると,血液は消化されて黒い色になります.血のいっぱい入ったレバーを生で食べても便に血が混じらないのは,この消化のためです.したがって一般に「血便」といっても,本当は新鮮血がでる血便と,黒い便(タール便とも呼ぶ)になる血便があり,それぞれ出血の部位が,下部消化管,上部消化管と異なっているのです.そして原因は,寄生虫,機械的障害,感染,炎症,腫瘍,単純出血などと多様です.

便に血が混じる程度ではなく,真っ赤な血が出る場合,あるいはトマツジュース状の赤い水様便が出る場合には,事態は深刻です.まず血そのもののようなものが出る場合には,出血しやすい状態,あるいは大腸の粘膜がかなり大きくはがれている(びらんや潰瘍)ことが予想されます.この場合は緊急事態なので,ショックも考えられますからすぐに診察を受ける必要があります.また赤い水様便が出る場合にも,激しい大腸炎が考えられます.猫のパルボウイルスによる伝染性腸炎(猫汎白血球減少症)の場合にはあまりこのような症状は多くありませんが,原因は何であれそれを止めて,しかも失われた水分と血液を補給しないと,急死することもあります.

また便に血が混じる場合には,まず大腸炎が疑われます.これには食物アレルギーによるもの,細菌感染によるもの,原因不明のものなどいくつもの病気があります.診断のためには様々な検査や腸の生検も必要になることがあります.大腸炎の場合は下痢や軟便になっていることが多いのですが,血以外にも,白い粘液がついていることがあるかもしれません.しかし全く水様の場合もあります.また腸に悪性の癌や良性のポリープなどができて,そこから出血が続いていることも考えられます.結腸の下の方までは内視鏡というカメラを入れて覗くことができますが,それより上だとおなかを開いて調べる必要もあるかもしれません.大腸が原因で下痢が起こる場合には,大腸性下痢といって,肛門から飛び出す,量は比較的少な目,粘液が付着,体重減少や脱水はあまり激しくないなどの特徴があります.

肛門から入ったすぐのところ,あるいは肛門の周囲に傷や病変があって出血する場合もあります.この場合には消化吸収には関係ないので,下痢のことは少ないでしょう.この部分にも癌やポリープ,さらにリンパ系の悪性腫瘍などができることもあります.また便秘がちで固い便がでるときにわずかに出血することもあるかもしれません.
 黒い便の場合は小腸に出血があります.下痢を伴っている場合は小腸性下痢の特徴がみられるかもしれません.すなわち量が多い,粘液や赤い血液はみられない,嘔吐もみられる,体重減少があるなどです.急性の小腸炎の原因としては猫汎白血球減少症や細菌感染,寄生虫,膵臓の病気などがあります.また慢性で出血を伴うものには,肝臓の
病気,激しい炎症,腫瘍などがあります.

診断のためには,まず便の検査から始まり,血液検査,血液化学検査,尿検査などのスクリーニング検査を行い,それから肝臓や膵臓に関する特殊検査,また腸の造影検査,エコー検査,内視鏡検査などかなりの検査が必要になります.また炎症や腫瘍の検出には,必ずといってよいほど生検による病理検査が必要になります.このためには,内視鏡で組織をとってくるか,おなかを開けて腸の一部を切りとる必要があります.
便に少々赤いものがついているというだけでも,癌の初期であったり,かなり重大な病気の初期症状のことがあります.したがって,わずかな異常でも病院で診察を受けるようにしましょう.

血便−すぐに病院へ

1.肛門から激しい出血
2.トマトジュース様の水様便
3.ぐったりして元気と食欲もない
4.体の別の部分でも出血がある
5.交通事故やけが
6.中毒の可能性


便に血が混じる−待ってもよいが必ず診察を

1.下痢や軟便に血が混じる
2.肛門からわずかに出血
3.便がいつも黒い
4.貧血がみられる(口の中が白い)
5.特定の食べ物で便に血が混じる
6.便をするとき苦痛を伴う
7.便秘と下痢が交互


便秘

原因には神経反射の異常,痛みによる排便困難,心因性,薬物性,機械的閉塞,内分泌異常が考えられます.
たとえば神経支配に異常が起こると大腸が広がってしまい,便を押し出せなくなります.これは腰部の脊椎に異常が起こって神経が圧迫された時などに起こります.また肛門付近に膿瘍や化膿巣があれば痛みのために排便をいやがります.そしてがまんすると便が固くなって,さらに排便時の痛みが激しくなります.便器が汚れているとか,他の猫にじゃまされるという原因で便秘になる猫もいます.薬物で便秘が起こることも知られているので,他の病院で薬を与えられたことなどの情報も重要です.またバリウム造影剤でも便秘が起こることがあります.大腸に閉塞があっても便秘になります.これは腸の中の問題(異物,腫瘍)と,腸の外からの圧迫(腫瘍や骨折)があります.また長毛種などで肛門周囲の毛に便が付着して乾いて,肛門を閉塞するものもあります.
このように原因は多様で,原因を正しく診断しないと治療できないものが多いので,素人療法は禁物です.とくに人間用の下剤や浣腸など,家庭では絶対に使用するべきではありません.


水を飲まない

水は栄養分ではないとしても,生きて行くのに絶対必要なものです.体の70%は水分で,まず血液の成分として重要です.水が少なくなると血液の量も少なくなって,体の各部分に血液が十分に行き渡ることができなくなってしまいます.血液が行き渡らなくなれば,当然組織や細胞で酸素不足が起こり,また老廃物を運び去ることもできなくなります.また体の各部分を作る細胞も,水なしではしぼんでしまい生きてゆけなくなります.そして,細胞の中で様々な栄養分を代謝するのにも,水は欠かすことができません.体の蛋白や糖分,脂肪などはたとえ半分失われても動物は生きていられますが,体の水分が10%失われたら,大変なことになり,15%失われると動物はもはや生きて行けないのです.

体の水分は,口から飲む,あるいは食物と一緒に食べて体内に入る量と,尿,呼吸,便などで失われる量がうまくバランスされて,過剰にも,欠乏にもならないようになっています.現在の飼い猫は,北アフリカの砂漠に棲息していたヤマネコの特徴が随所に残っているもので,水が簡単には得られない乾燥した砂漠で生き延びられるよう,水分をよく再吸収して濃縮した尿を排泄するようになっています.そして急激に水が欠乏した状態では(脱水),できるだけ尿に捨てられる水を少なくして,体の水をセーブしようとします.このため,急な脱水に対しては,犬や人間よりもよく耐えられます.しかしながら,脱水が長く続けば,他の動物同様,命が危険になります.

野生猫の典型的な獲物の構成は,70%が水分で,残りの半分が蛋白,半分が脂肪ですが,飼い猫もこれに似た食物を好んで食べます.したがって,ドライタイプ以外の食事の場合には,食事と共に水分をとることが多いようです.このため,缶詰などのモイストタイプの食事を与えられている猫では,そう頻繁に水を飲むところをみなくても異常ではないでしょう.猫用の缶詰は1缶が約180g入りで,1缶には約80%の水が含まれているとすると,通常は体重3-4kgの猫で1日1缶食べるので,それだけで144mlの水分がとれるわけです.5-6kgの猫で2缶食べる場合には,288mlの水をとることになります.1日に必要な水の量は,失われる分から計算して約200ml程度ですので,1缶食べていれば,少しは水を別に飲んでいるはずですし,2缶食べていればとくに水は飲まないかもしれません.もちろんこの1日の必要量は,気温が高い,運動量が多い,病気で熱がある,下痢や嘔吐などの要因で増加するものです.

このようなモイストフードを食べている猫の場合,問題は食欲がなくなった場合です.栄養分をとれないのは,体に貯蔵した栄養分で補うことは可能ですが,水分だけは常に失われているので,絶対に補給が必要です.また呼吸が苦しくて口を開けて呼吸する,熱があるなどで,失われる水の量も多くなるので,1日水も食事もとらなければ,差引き200ml以上の水が不足していることになります.そしてそれが2日になれば400ml以上の不足になり,かなり危険な状態になってしまいます.
ドライフードを食べる猫の場合は,食事中の水分含有量が少ないので,水を飲む必要があります.したがって,食事のそばにはいつも新鮮な水を用意して置くべきです.また一部の猫は,おわんから飲むのより,流しにはった水や金魚鉢の水を好むことがあります.この場合も食欲不振,鼻が効かなくなった,などで水分摂取がなくなったら要注意です.
体に入ってゆく水が少なくなった場合,あるいは失われる量が多くなった場合(嘔吐,下痢,多尿など)は脱水の症状に注意してください.脱水は,毛や皮膚の状態でわかります.毛並みが悪く,皮膚をつまんですぐに戻らなければ明らかに脱水しています.もっとひどい脱水では,目がくぼんでしまいます.また,吐いたもの,水様の下痢などは,床に広がった大きさから失われた水の量を計算できます.たとえば,床に直径20cmの水様便がしてあったとすれば,半径10cmの2乗,すなわち10x10に円周率の3.14をかけて314,これに水の盛り上がった高さ,通常0.1cm位でしょうか,これをかけるとその水の体積になります.そうするとこの場合約30mlの水が1回の下痢で失われたということになります.これに下痢の回数をかければ,下痢だけでそれだけ余分に失われているということがわかるのです.

このように脱水の症状がみられて,しかも猫が水を飲まない,あるいは食事をとらないならば,病院で水分を補給してもらう必要があります.病院では,栄養のバランス,水の必要量などを計算して,口からの投与,静脈内への点滴,あるいは皮下注射で脱水を直します.


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